2019年度第28回大会公開シンポジウム趣旨

テーマ 【英国教育史研究の軌跡と展望~歴史を紐解く時間として】

 日本における英国教育研究は、近年の大きな教育改革の影響が随所にみられることを受け、研究者の興味関心は細分化しつつも研究知見が豊かに蓄積されてきている。ただ、細分化するが故に「ではのかみ」と称されるように、部分的あるいは断片的な紹介にとどまることもある。もちろん、今日の英国教育をめぐる急速な環境変動を追いつつその性質を的確に把握する必要があることは言うまでもないが、矢継ぎ早の改革が実行されており、それぞれの功罪を、短期間で緻密に事前事後検証することはもはや困難である。とは言え、政治・一般行政レベルはもとより日本の教育システムの企画・実施プロセスにおいて英国の類似システムが参照されることもこれまでも数多く、日本へ応用可能な施策やその実施状況を随時紹介することもまた私たちの責務である。
かかる今日的状況のもと、歴史研究の成果が今後の教育を導く、欠陥を是正する、あるいは何らかの示唆を与え得るのかという視座に立てばそれはなかなか現実には困難ではあるが、歴史の延長線上に今日があり、それを「跡付ける」学術的な意義は極めて高いまま今日に至っていると思われる。英国の政治行政システムも長年の伝統を背景に有し、例え教育制度に関わる大規模な変革であっても、当の英国人(研究者)は泰然と臨んでいることに驚かされることもある。リーダーシップ研究や組織・カリキュラムマネジメント研究等が隆盛を誇る今日、歴史研究は英国本国においてもサッチャー改革の余波を受けて以来、財政抑制による制約もあり低調というべき状況にあった。日英教育学会でも久しく歴史研究をテーマとして取り上げていなかった状況に鑑みて、本大会では改めて英国教育史研究に光を当ててみたい。目まぐるしい変革が続き息つく暇もない今日であればこそ、英国の歴史的文脈に改めて触れることで私たち英国教育研究者の「目が肥える」機会になれば幸いである。
そこで本大会は福岡大学で開催することもあり、英国史研究の重鎮である松塚俊三先生(福岡大学名誉教授)から英国教育史研究のだいご味を、そして香川せつ子会員(現在、西九州大学客員教授)から永年の女性教育史研究についてそれぞれ講話いただくことにしている。改革疲れも看取される現在からいったん歴史を遡り、英国教育史研究の意義を再度会員で共有し、特有の伝統を味わえるようなシンポジウムになればと思っている。


 〔シンポジスト〕

松塚俊三(福岡大学名誉教授)
 イギリス近代史、民衆史、教育史をご専門とし、現在も九州歴史学科研究会、イギリス教育史研究会、九州西洋史学会等で精力的に活躍中。『19 世紀イギリスの民衆と政治文化』(2004)昭和堂、『歴史のなかの教師―近代イギリスの国家と民衆文化―』(2001)山川出版社、R・オルドリッチ『イギリスの教育―歴史との対話―』(安原義仁氏との共訳)(2001)玉川大学出版部等、多数の著書、翻訳書を刊行。

香川せつ子(西九州大学客員教授)
 イギリス女性教育史、女性と高等教育、ジェンダー等の領域がご専門。『女性と高等教育-機会拡張と社会的相克』(香川せつ子, 河村貞枝共編著)(2008)昭和堂、「ケンブリッジ大学における女性科学者の系譜―19 世紀末から 20 世紀初頭にかけての時期を中心に―」(2015)西九州大学子ども学部紀要、「イギリスにおける教育史研究の潮流―ジェンダー、トランスナショナリズム、エージェンシー」/ジョイス・グッドマン著、香川せつ子、内山由理、中込さやか訳(2018)西九州大学子ども学部紀要等、多数。現在科研で「女子高等教育のトランスナショナルな交流とネットワーク構築に関する歴史的研究」を展開中。

【交通アクセス】

《大会参加費》 3000円(一般会員)、1000円(学生会員)
《懇親会費》      3000円

【禁煙】館内は禁煙です。キャンパス内にある所定の喫煙所でお願いします。
【宿泊】各自でご手配をお願いいたします。
【昼食】両日ともに学食が開いておりますので、適宜ご利用ください。

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