11月4日(土)に公開研究会開催を予定しています。

公開研究会担当の片山委員、沖委員、佐藤委員から下記の内容で公開研究会を予定しているとの連絡がありました。

近日中に会員の方の参加用のZoom URL(及びミーティングIDとパスコード)と一般(非会員)の方の事前登録用のURL等をお知らせいたしますので、奮ってご参加ください。

テーマ:19世紀イギリスにおける自由教育論争                                        
    ―T. H. ハクスリーとM. アーノルドの教養概念の比較検討―

日時:2023年11月4日(土)15.30-17.00

実施方法:Zoomで開催

趣旨:イギリスでは伝統的に、教養(culture)を身につけることは社交性を身につけることと同義とされてきた。そして、エリート教育としての役割を担ってきたパブリック・スクールやオックスフォード大学、ケンブリッジ大学では、社交的にふるまうための共通の知識基盤として、主に人文学に関する幅広い知識を得ることが不可欠とされ、教養を身につけさせる自由教育(リベラルエデュケーション)は人文主義的なエリート教育と同義であった。しかし、19世紀に入り、科学の価値が認められるようになるにつれて、人文学を中心とする教養概念の問い直しが起こり、主として文学を擁護する立場と科学を推進する立場の間での論争、いわゆる自由教育論争が展開されることになった。論争の代表的人物として、C. ダーウィンの進化論を擁護し科学教育の普及に尽力したT. H. ハクスリーと、名門パブリック・スクールであるラグビー校に変革をもたらしたT. アーノルドを父にもち文学教育の擁護に努めたM. アーノルドが挙げられ、両者は教養概念をめぐって論争を直接展開した。
 他方で、英語のcultureやドイツ語のBildungの翻訳語である日本語の教養という言葉(明治期には「修養」が訳語として用いられ、大正期から「教養」が用いられるようになっている)には、生涯を通じた人格形成という意味合いが含まれてきた。しかしながら、現在の日本では、教養は幅広い知識を得ることと理解され、その役割も過度な専門性や実用性の追求によって狭められた視野を広げることにあると見なされる傾向にある。その一方で、幅広い知識を得ることがいかにして人格形成に寄与するかを問う視点は失われてしまっている。
 こうした問題意識から、19世紀イギリスの自由教育論争におけるT. H. ハクスリーとM. アーノルドの教養概念を比較検討することで、幅広い知識を得ることと人格を形成することの関係を科学と文学という切り口から模索し、教養概念研究の現代的意義を考える機会としたい。

講師:本宮 裕示郎氏(滋賀県立大学)

関連書籍:本宮裕示郎(2023)『イギリスの自由教育論争:教養をめぐる科学と文学の相克』東信堂。

司会:沖 清豪(早稲田大学) 
企画:片山 勝茂(東京大学)